第30回南方熊楠賞受賞者・北原糸子氏の記念講演が視聴できます!

第30回南方熊楠賞

昨日11月7日、第30回南方熊楠賞授賞式が開催されました。
受賞者は北原糸子氏は日本の災害史研究が専門の歴史学者。

北原糸子氏の受賞記念講演が南方熊楠顕彰会公式YouTubeチャンネルで期間限定配信されています。視聴できるのは11月15日(日)17時まで。

昨日見かけた白くて小さな植物

ヒナノシャクジョウ

昨日見かけた白くて小さな植物。

白色が目に入って最初キノコかと思いましたが、よく見たらキノコではありません。腐生植物かと写真を撮り、帰宅後調べてみたら、ヒナノシャクジョウ(雛の錫杖)のようです。

腐生植物。今では菌従属栄養植物とも呼ばれています。葉緑素を持たず光合成を行わない、土壌中の菌類に寄生して生きる植物。

南方熊楠が神社合祀反対を訴えて帝国大学理学部植物学科教授の松村任三氏に宛てた書簡には、熊野の森の豊かさを説明する文章の中でヒナノシャクジョウが出てきます。

たとえば、岩窪1尺四方ばかりのうちに落葉が落ち重なっているところに、ルリシャクシャクジョウ、ヒナノシャクジョウ、オウトウクワとホンゴーソウ、また Xylaria filiformis と思われる硬嚢子菌が混生する所がある。

「南方二書」口語訳

熊楠はこの一文で熊野の森の豊かさを植物学の権威者・松村任三氏に訴えました。

30cm四方に、ルリシャクシャクジョウ、ヒナノシャクジョウ、オウトウクワ(※キヨスミウツボ)とホンゴウソウが生える。この4種は光合成しない無葉緑植物です。

ルリシャクシャクジョウ、ヒナノシャクジョウ、ホンゴウソウの3種は菌類から養分をもらって生活する菌寄生植物。キヨスミウツボはアジサイ類やマタタビ類などに寄生する植物寄生植物。滅多に遭遇できないこれらの植物が30cm四方のなかに生えているのが熊野の森。

光合成をやめた寄生植物の豊かさはその森の豊かさを示します。とくに菌寄生植物の豊かさは土壌中の菌類の豊かさに根ざします。土壌中の生物の豊かさが森の豊かさなのです。

スペインかぜ大流行の折柄、南方熊楠、珍菌を採取

大正7年(1918年)11月29日付『牟婁新報』
大正7年(1918年)11月29日付『牟婁新報』

スペインかぜ(スペインインフルエンザ)1回目の流行期に南方熊楠は珍しいキノコを採取しました。

熊野田辺の地方新聞『牟婁新報』の記事を引き写してご紹介します(不二出版の『牟婁新報〔復刻版〕』第29巻より。読みやすくするため、旧漢字・旧かな遣いは当用漢字・現代かな遣いに変更するなど表記を改めています)。

南方氏珍菌発見

先日当町上屋敷町山本吉太郎氏邸付近を、南方先生通行の際採取したる珍菌は学名リノトリヒヤ・ラコロランスと呼び、45年前英国菌学大家クック博士の発見したると同種の珍菌にして、クック氏以来いまだ何処にても探収せしを聞かざる逸品なりと。先生いわく、感冒大流行の折柄こんなものを取ったので研究に8時間もかかり往生したよ。

大正7年(1918年)11月29日付『牟婁新報』

(追記)
珍菌「リノトリヒヤ・ラコロランス」については検索してもまったく出てこないのですが、どうやら Rhinotrichum decolorans Cooke のようです。この記事を読んでくださった方からメールがあり、ご教示いただきました。ありがとうございます!

同日付の紙面の『牟婁新報』社主の毛利柴庵による「牟婁日誌」にはスペインかぜに罹患した毛利柴庵がまだ完治していないことが書かれています。

27日(晴)
24日の朝からまたまた法螺貝を吹いているが、まだ充分熱が冷めぬ貸して今朝も気分が悪い。暁天の月光を浴びつつ深呼吸を致したところが、横腹が痛い。
9時過ぎまた臥床に入る。川島草堂君来たる。いわく、先日ここへ来てから伝染したと見え3日ばかり弱ったが無闇に酒を飲んでやったら治ってしまった。(中略)
南方大人来たる。いわく、まだ寝ているのか困ったなあ、吾輩も、妻が病気、下女は無し、今年8つになる子供が火をたいているが危なくてなあ。
午後2時過ぎ井川君来たる。「入ったら伝染するかも知れぬが今日は徴兵送りでのう」と。道理で先刻来、賑やかな楽隊がしばしば通った。さすがに壮丁諸君感冒患者も無いと見える。

大正7年(1918年)11月29日付『牟婁新報』

この後、熊楠は12月3日には発熱の症状が出ているので、毛利柴庵から感染したのか、それとも「妻が病気」とあるので妻からでしょうか。