第32回南方熊楠賞授賞、江原絢子氏の記念講演

南方熊楠賞授賞式

南方熊楠賞授賞式が昨日5月14日開催されました。私はスタッフとして参加しました。

第32回の今回の授賞者は料理学者、食文化史が専門の江原絢子氏。受賞おめでとうございます。

江原氏は日本における食物史を開拓し、和食文化を学術領域として確立することに貢献しました。その研究は「和食」がユネスコの無形文化遺産 に登録された際の基礎資料にもなりました。

南方熊楠賞
南方熊楠賞

記念講演をお聞きして面白いと思ったこと

  • 水で洗ってそのまま食べる。世界的にはユニークな料理。ほうれん草のおひたし、ざるそば、お刺身など。水が豊かできれいな地域だからできる料理。
  • 江戸時代の料理は簡単。
  • 江戸時代の料理には砂糖はほとんど使われなかった。
  • 菓子にはたくさんの砂糖が使われた。

紹介された面白そうな江戸時代の料理本

江戸時代初期に刊行された和歌のかたちで書かれた食材の事典。

江戸時代初期に刊行された日本初の本格的料理書。

江戸時代前期の医師で本草学者の人見必大(ひとみひつだい)によって著された日本の食物全般について性質や食法などを詳しく説明する食材の百科事典。

江戸時代中期に刊行されたベストセラー豆腐料理本『豆腐百珍』。リンクは『豆腐百珍』に記載された豆腐料理100品すべてを現代に再現したレシピ本。

江原氏の学問は、近世や近代の料理を文献から再現することと、現在の郷土料理等を現地調査することが2つの柱になっているようです。これは熊楠の学問のあり方に通じるものがあります。また新たな学術領域の確立に貢献したことも熊楠を思わせます。

江原絢子氏のご著書

江戸時代の20の料理書から77のメニューをわかりやすく再現!
桜飯、大豆飯、利休飯、こしょう飯、須弥山汁、すり流し豆腐、ズズヘイいも、大根ずし、蒸し羊羹、ごぼう餅、うずら焼き、すすり団子、はす餅、けんぴん、かすてらいも、など。

和食の歴史と変化を学べる和食の教科書。

「日本食」が形成され変化する過程を描く。

八十八夜に茶摘み

茶

今日は八十八夜。立春から数えて88日目の日。

今日は茶摘みをしました。

夏も近づく八十八夜
野にも山にも若葉が茂る
あれに見えるは茶摘みぢやないか
あかねだすきに菅(すが)の笠

日和(ひより)つづきの今日このごろを
心のどかに摘みつつ歌ふ
摘めよ摘め摘め摘まねばならぬ
摘まにゃ日本(にほん)の茶にならぬ

唱歌「茶摘み」

八十八夜に摘んだお茶をその日のうちに飲むと病気にならない、との言い伝えもあるとか。

田中神社のオカフジ、咲いています

南方熊楠と氏子たちの抵抗により守られた田中神社の森。

その森にいまオカフジが咲いています。オカフジの標準和名は牧野富太郎によって命名されたヤマフジ。

過日御将来の紫藤は、小生自ら色々取調べたるところ、間違いもなくキフジ、オカフジと本草図譜巻二十九に出おるものに候。丁度大字岡に産する故オカフジという名が宜しき様に思うも、牧野博士はこれにヤマフジと名を付けあり、小生は既に古くよりキフジ、又オカフジなる名称があるに、昨今ヤマフジと命名するは、如何と存じ候。(こればかりがどこの山にも生ずるに非ず、他所は知らず、紀州には山に生ずるフジは多くは例の穂が長きものなればなり) この事一度牧野博士へ問い合わすべきも、とにかく小生はオカフジという古い名がよいと存じ候。

樫山嘉一宛南方熊楠書簡、昭和6年10月18日付『改訂 南方熊楠書簡集』紀南文化財研究会)

牧野富太郎はヤマフジと命名したが、江戸時代後期刊行の日本最初の植物図鑑『本草図譜』にはオカフジとあり、自生地の地名も岡なのでオカフジがよかろう、と南方熊楠は述べています。

田中神社の森は戦後、その価値を認められ、昭和31年(1956年)に和歌山県の天然記念物に第一号として指定されました。藤の花の咲く5月上旬ころには、その優雅な姿を今も見せてくれます。

岡の田中神社をツブしちゃ困る—南方先生の談話—(原文)