草木の王、南天

南天

かつて「草木の王」と称された南天の花がぼちぼち咲き始めました。

以下、南天について南方熊楠「紙上問答」より。

南天は『本草』に草木之王と称し、その枝葉を久しく服すれば、長生し、また飢えず、と言えり。……

十年ばかり前、東牟婁郡色川村の浦地健治という人、南天の大木を伐り、博覧会へ出し誇りおりたり。公文山とて、三里村近き地に神木多く、これを伐りて異様の凶死せし者十四、五人あり。この山に径一尺六寸ほどの大南天一本あり。毎度見つけて、さてこれを伐らんと支度して、また往き見れば一向なし。他の樹木に変相するなり、という。むかし土小屋の神社に、生きたる「おこぜ」魚を献じ、水乏しかりし川に大水を招き出し、十津川より材木十万を一朝に下し、大いに細民を救いし人あり。この人件の大水出るを見て歓喜に堪えず、径八寸ある南天の大木に乗り、流れに任せて失せ去りし、と言い伝う。
(『南方熊楠全集3』平凡社、213~214頁)