YouTubeで能の「翁」を見ました。
正月初会や祝賀能などで行われる、「能にして能にあらず」といわれる別格の演目。
緊張感がすごいです。能楽師が行いますが、これは神事です。
これといったストーリーはなく、謡には呪文のような意味のわからないものもあります。
シテ 上「とうどうたらりたらりらたらりら
宝生流謡曲 翁
地 上「ちりやたらりたらりら。たらりあがりららりどう
千歳 下「鳴るは滝の水。鳴るは滝の水日は照る
地 上「絶えずとうたり ありうどうどうどう
千歳 下「絶えずとうたり。常にたうたり (舞)
室町時代の能楽師で世阿弥の娘婿に当たる金春禅竹(こんぱる ぜんちく)が翁について書いた『明宿集』という秘伝書があって、それがすごい内容で驚かされました。
現代語訳が中沢新一氏の『精霊の王』に収録されています。その冒頭を以下に。
そもそも翁という神秘的な存在を探求してみると、宇宙創造のはじまりからすでに出現していたものだということがわかる。そして地上の秩序を人間の王が統治するようになった今の時代にいたるまで、一瞬の途切れもなく、王位を守り、国土に富をもたらし、人民の暮らしを助けてくださっている。
中沢新一『精霊の王』講談社、322頁
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翁というものは神秘的なもので、私にはよくわかりませんが、この世界のあらゆるものに底通し、霊妙な働きを及ぼしている世界の根本のような存在なのかもしれません。
謡の文句に「鳴るは滝の水」とあるので、神聖な滝のもとか滝つ瀬の岸辺で神事を行っている格好なのかも。