梅原猛さんの『日本の原郷 熊野』。何度も繰り返し読んだのでかなりボロボロになっています。
初版が1990年1月20日。今から29年前に出た本です。
古代・中世・近世の熊野についてのあらましがざっと書かれてた本で、この1冊を読めば熊野が日本の歴史の中で特別な場所であったことがわかります。ページ数もそれほど多くなく格好の熊野入門書になっていると思います。
梅原猛さんは哲学者。今年2019年1月12日に亡くなられました。京都市立芸術大学学長や国際日本文化研究センター所長、社団法人日本ペンクラブ会長などを歴任した人物で、東日本大震災の後には東日本大震災復興構想会議特別顧問(名誉議長)を務められました。
私の持っているのが第4刷で日付が1991年6月15日なので、私が初めてこの本を読んだのはたぶん1991年だったと思います。
その2年後に私は神奈川県から熊野に移住しました。移住のきっかけのひとつが『日本の原郷 熊野』でした。
熊野ってすごい場所なんだ。日本の原郷。日本人の精神文化の拠り所。日本人の心のふるさと。そんな所で暮らしてみたい。そう思わせてくれたの1冊がこの本でした。
この本の最後の一段落。
熊野古道は今はさびれている。もうここを旅する人はほとんどいない。しかし私は、今はもう一度日本人は熊野を想起すべき時であると思う。古代と中世の接点の時に、人はルネッサンスのごとく太古への回帰、自然への回帰の情熱に駆られてこの熊野へ蟻のごとく参った。今、文明は再び太古と自然へ帰ることを要求しているのではないか。また、第二の蟻の熊野詣が始まる時期が来ているように思う。
梅原猛『日本の原郷 熊野』とんぼの本 新潮社
梅原猛さんが2003年10月1日に新宮市で講演されたとき「熊野から、自然との共存を根底においた生き方、思想を発信せよ」というようなことをおっしゃられました。
自然との共存を根底においた生き方、思想を発信せよ。
熊野ならばそれができる、と梅原猛さんは熊野に期待を寄せられていました。