前回の記事で那智の滝の水量の減少について触れましたが、その追記。
今回の水量減少の問題は高度経済成長期の大規模な伐採に起因するものでしょうが、江戸時代の中頃ぐらいにも那智の滝の水源林が乱伐された時期がありました。そのときには山崩れが起こって、那智の滝の滝壺が3分の1強埋もれるということもありました。
そのため、伐採跡地にはカシの木ばかりが植えつけられました。カシの木は重くて硬くて加工が難しく材木にならないので乱伐される心配がないということで、乱伐させないためにカシの木が選ばれて植えられ、那智の滝の水源林はカシの木の密林となりました。
その水源林に、明治末期にまた伐採の危機が訪れました。このときに伐採反対を訴えたのが南方熊楠です。
さて霊山の滝水を蓄うるための山林は、永く伐り尽され、滝は涸れ、山は崩れ、ついに禿山となり、地のものが地に住めぬこととなるに候。
松村任三宛書簡、明治四十四年(1911年)八月二十九日付『全集』七巻
南方熊楠は、もし伐採が実行されたら、那智の滝は涸れ、山は崩れ、終いには禿げ山となって人が住めなくなるだろうと警告して、伐採を食い止めました。
このときには水源林を守ることができましたが、残念ながら、それから50年後ぐらいの高度経済成長期にその大部分が伐採されてしまいました。カシの木の密林は失われ、現在では水源林の大部分が杉桧の林となりました。
「もし伐採が実行されたら、那智の滝は涸れ、山は崩れ、終いには禿げ山となって人が住めなくなるだろう」というおよそ100年前の熊楠の警告がいま現実味を帯びてきており、今年2019年の1月に那智勝浦町では「那智の滝保全委員会」という町長の諮問機関が設置されました。第1回の会議では町長が「那智の滝が流れる姿を未来永劫守っていかねばならない」と決意を表明されました。
那智の滝が雨の日にしか出現しない幻の滝のようになってしまうのは嫌です。那智の滝を守るために何ができるのか。那智勝浦町の取り組みに期待しています。