以下はお話した内容に少し加筆したものです。
飛瀧神社は那智の滝を御神体とする無社殿神社です。
拝殿も本殿もなく、滝を直接に拝む神社です。
熊野にはかつては多くの社殿のない神社、無社殿神社がありましたが、明治末期、今から100年ほど前に神社合祀という神社を統廃合して神社の数を減らすという国が推し進めた政策のためにそのほとんどが潰されました。
飛瀧神社はその時に潰されずに済んだ数少ない、貴重な無社殿神社の生き残りです。
熊野那智大社の信仰の大元がこの飛瀧神社、那智の滝への崇拝です。
落差133m。一段のまっすぐに落ちる滝としては日本一の落差を誇ります。
水量の多いときにこの滝を仰ぎ見ると、すごい迫力です。その迫力に古代の人たちは神様を感じたのだと思います。
この日は前日に雨が降ったので水量がありますが、いくら落差があっても水量が乏しく風になびくような滝では神々しさも感じられません。
滝の水量は那智の信仰にとってとても大切なことですけれども、いま那智の滝は水量の減少が懸念されています。
滝の水量は水源域の山のあり方によって変わりますが、現在、那智の滝の水源域の大部分はスギ・ヒノキの人工林です。正確な数字はわかりませんが、おそらく水源域の80%以上がスギ・ヒノキの人工林です。
スギやヒノキは広葉樹よりも水を大量に消費する樹木なので、その分、下流に流す水の量は減ります。
そもそもスギ・ヒノキの人工林は広葉樹の林に比べて地表に届く雨水の量自体が少なくなります。スギやヒノキは葉の表面積が広葉樹よりも大きく、雨粒をより大量に抱えることができます。抱えられた雨粒は地表に届くことなく樹上で蒸発します。
またスギ・ヒノキの人工林は間伐が不十分だと日の光が地表に届かないので、下草が育たず、土がむき出しになります。むき出しの地面を雨粒が叩くと、雨水が土壌に染み込みにくくなって、雨水が地表を流れるようになります。土壌へ浸透する雨水の量が減れば当然、山の土壌の保水力も低下します。
手入れがきちんとされているにしろされていないにしろ、水源域におけるスギ・ヒノキの人工林の占める割合が高すぎることが那智の滝の水量減少の大きな原因なのではないかと想像しますが、他にも原因はあるのかもしれません。
100年先もこの滝を残したい。そのために何ができるのか。
今年2019年の1月に那智勝浦町では「那智の滝保全委員会」という町長の諮問機関が設置され、第1回の会議では町長が「那智の滝が流れる姿を未来永劫守っていかねばならない」と決意を表明されました。
那智の滝が雨の日にしか出現しない幻の滝のようになってしまうのは嫌です。那智の滝を守るために何ができるのか。那智勝浦町の取り組みに期待しています。