昨日の南方熊楠顕彰館の座談会「熊楠の神秘体験を読み解く-心理学、文学研究、宗教学などの立場から」で知ったことの1つ。
妖怪学の祖として知られる井上円了の霊魂論。
井上円了の著作をほとんど読んだことがなくて知らなかったのですが、井上円了の霊魂不滅論というのは「国民を挙げて国家のために一身を犠牲にする覚悟を養」うための政治的、国家的なものだったのですね(「霊魂不滅論」『井上円了選集』第十九巻)。
日清戦争と日露戦争の狭間の明治32年(1899年)に井上円了が論じた「霊魂不滅論」。
井上円了の言説に対して南方熊楠は批判的です。
ラサレにありし鈴木大拙、かつて書を寄せて事を論ず。その中に宗教は道徳と別のものなり、このところ不可言の旨なりという。このことまた大いに味あり。到底行なわれぬことながら、わが邦の愛国とか忠君とかいうことを喋々する仏僧などの一針と思う。たれか妖怪学とかを唱えて、忠君愛国の資となさんといいし人もありしやに思う。
(土宜法龍宛書簡、明治三十五年三月二十二日付『南方熊楠全集)第七巻)
熊楠は国家的なものよりも、ローカルなものを、あるいは個的なものを大切にしていたように思います。
宗教や霊魂や妖怪は道徳とは別にあるもの。
「宗教は道徳と別のもの」だという鈴木大拙の言葉は、宗教が国家の道徳と結びついて戦争協力を行ったことに対する痛烈な戒めです。