南方熊楠の英語で書かれた手紙

kumagusu

南方熊楠の英語で書かれた手紙の一部。

As for the Monkey-God of Itoda, I must say that I was perfectly stunned with despair on my return from the tour to find the whole grove, that formerly added much to the sacredness of this shrine, entirely disappeared — the preservation of the many hundred years old Chinese Camphhor-tree being quite out of the question. The scenery has been totally destroyed. This sort of Vandalism, which is practiced of late years daily in this country, would seem to result not before long in the disastrous ruin of the patriotic as well as the aesthetic sense of the Japanese.
(1909年2月19日付グリエルマ・リスター宛書簡、山本幸憲編『南方熊楠・リスター往復書簡』南方熊楠邸保存顕彰会、24頁)

訳すとこんな感じです。

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糸田の猿神に関しては、すべての木々(以前これらの木々がこの神社の神聖さを深めていました)が完全に姿を消した(樹齢何百年のタブノキの保護どころの騒ぎではなく)ことを見つけてからの帰路に私は絶望で茫然自失したと言わなければなりません。
風景は全く破壊されました。
この種の野蛮な行為(この国では近年日常的に行われています)は、ほどなく日本人の愛国的な感覚や美的な感覚の惨たんたる破滅という結果をもたらすように思われます。

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明治時代に行われたことを思うと、明治維新を経ずに日本が近代化することができたとしたら、日本は今よりももっと豊かな美しい国になることができたのでは、と思わされます。

第26回南方熊楠賞受賞の中沢新一先生のご著書『純粋な自然の贈与』

純粋な自然の贈与

第26回南方熊楠賞受賞の中沢新一先生のご著書から、熊楠や熊野について語られている文章を改めて確認しています。

1996年発行の『純粋な自然の贈与』には「すばらしい日本捕鯨」という文章が収められています。

「すばらしい日本捕鯨」では、太地の捕鯨について語られます。

純粋な自然の贈与

その思想の飛躍は、熊野の太地でおこった。せっかく発達したまま、無用のものとなりつつあった海の戦争技術は、捕鯨の技として、新しく生まれ変わったのだ。
(中沢新一『純粋な自然の贈与』せりか書房、43頁)

 

日本で発達した「勇魚」捕りの技の優美さは、ここから発生している。日本の漁師たちは、大きな鯨をしとめるためには、より大きな銛が必要であるとか、大きな銛を打ち込むための火器を利用した新しい武器が必要だ、などという欧米捕鯨的ながさつな技術思考に、頼ることがなかったのである。
(中沢新一『純粋な自然の贈与』せりか書房、45頁)

文庫化しています。

純粋な自然の贈与 (講談社学術文庫)
純粋な自然の贈与 (講談社学術文庫)

太地の捕鯨についての『紀伊続風土記』での解説はこちら。
鯨漁(太地村):紀伊続風土記(現代語訳)

オオカミの再導入

オオカミ

先日の日本オオカミ協会紀州吉野支部の講演会の会場で購入した本。

頂点捕食者のいない生態系はいびつです。熊野でもここ7〜8年くらいで急速に自然の破壊が進んできました。増えすぎたシカのために森が再生できなくなってきています。生き残るのは有毒な植物くらい。ひじょうに怖い状況です。

オオカミの再導入ってアメリカやヨーロッパだからできたことで、日本ではどうなんだろうという不安も少しはあったのですが、イエローストーン国立公園公認ガイドのスティーブ・ブラウンさんの講演を聴いて、逆にアメリカでできたのだから日本でできないはずがないと思うようになりました。

イエローストーン周辺地域でのオオカミによる経済効果は年間約30億円だそうです。

大切なのは教育と価値観づくり。

熊野のオオカミについての南方熊楠の記録。熊楠の頃にはオオカミは日本ではすでに絶滅していたかもしれませんが、伝承を伝える人たちはまだ生きていました。

西牟婁郡二川村五村などで、狩人の山詞に、狼をお客さま、また山の神、兎を神子供と言う。狼が罠に捕らわれると、殺すどころではなく助けて去らせる。
南方熊楠「紀州州俗伝」(口語訳)

その他種々聞いたことどもから推測すると、紀州の山神に猿と狼とがあり、猿神は森林、狼神は狩猟を司ると信じたらしく、オコゼ魚を好むのは狼身の山神、自瀆を見るのを好むのは猿身の山神に限るらしい。
南方熊楠「山の神に就いて」(口語訳)

オオカミと共生する人間社会に再び戻していくべき時が来たのではないかと思います。